宅建士の民法解説(取得時効)

2019年5月15日資格試験

宅建試験対策用に民法を解説した電子書籍を出版していますが、サンプルだとあまり中を閲覧することができないので、こちらで内容を一部

取得時効

P「ほんなら、具体的にいくで」
Q「最初は?」
P「取得時効っていって、時効で権利をゲットするってやつ」

所有権の取得時効

(所有権の取得時効)
第162条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

Q「なんか2つある。20年と10年」
P「この違いは『善意かつ過失がなかった』ってとこやな」
Q「その場合は10年ってことか」
P「そゆこと。そして、そもそもこの取得時効になるためには『所有の意思をもって』『平穏』『公然』ってのが必要やねん」
Q「それぞれ具体的によろ」

所有の意思など

P「いわゆる『自主占有』ってやつ」
Q「?」
P「これは占有権のところで詳しく出てくる内容やけど、借主とか預かり主ってのは自主占有にならんのよ。あくまで自分が主体となって所持してる状態を自主占有って言うんや」
Q「ふむ」
P「これは内心でどう思っていたかではなくて、客観的に『借主だったら自主占有にはならんよな』みたいに判断されるんやで」
Q「どう考えていようが、さして関係ないってことか」
P「うむ。詳しくは物権編の占有でやる」
Q「出たよ先送り」
P「順番が難しいからの」

P「ちなみに平穏の反対は強盗、公然の反対は隠秘」
Q「いんぴ?」
P「たとえば拾ったものを隠し持ってるとかってことな」
Q「あー」

P「ちなみに自主占有・平穏・公然は推定される」
Q「そうなん?」

(占有の態様等に関する推定)
第186条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。

P「取得時効と言われた側、つまり権利を失う側が、そうじゃないって立証せなあかんってことやな」
Q「なんだかなぁ」

占有の継続

(占有の態様等に関する推定)
第186条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

P「さっきの186条の続きになるけど、占有ってのは前後2つの時点で占有してるでって立証したら、その間についても継続的に占有してたんやなって推定される」
Q「普通はそうやわなぁ」
P「時効の権利を振りかざされた側は途中で占有してなかった時期があるって立証せんとあかん」
Q「このときは自分が占有してたから、継続ってことにはなってないでって?」
P「そゆこと。逆に、それができなかったら権利を失うことになる」
Q「何事も放置はダメってことか」
P「うむ」
Q「……」
P「ちゃ、ちゃんと仕事してるし」
Q「何も言ってないんだが」
P「」

Q「これさ、途中で相続とか起きたらどうなんの?」
P「相続だけじゃなくて、売買や贈与しても占有状態を引き継げるんや」
Q「そら時効でゲットしようとする側にしたらありがたい」
P「引継いだ人は、自分の占有だけを主張してもいいし、前の人のを併せてもいい」
Q「なんでそんな。前の人のを併せた方が期間的にお得ちゃうんか」
P「前の人が悪意で20年必要だったとして、引き継いだ人が善意などの要件満たしてて10年で済むときに、タイミングによっては前の人の期間を引き継がない方が時効完成が早くなることもあるやろ」
Q「あー、そっか」

期間

P「10年でゲットするためには善意無過失が必要ってあったやん?」
Q「うん」
P「これは占有しはじめたときに善意無過失だったら、事後的に悪意になってしもても期間としては影響ない」
Q「それってええの?」
P「あとから他人の物ってこと知ってしまうことは多々あるやろし、あくまで時効制度ってのは現状を尊重するものやからな」
Q「なるほどなぁ」
P「そしてさっきの併せる併せないが関係してくる」
Q「というと」
P「前の人は他人の物と知ってて占有開始したとするやん?」
Q「それだと20年やな」
P「5年経ったときに事情を知らない第三者が譲り受けたとする」
Q「その第三者は善意ってこと?」
P「そうそう。そのときは、自分の占有だけを主張するなら10年。前の人のを併せると、前の人は悪意だから20年だから、残り15年分が必要となる」
Q「そういう時は自分のだけを主張した方が期間が短くて済むってことやな」
P「うむ。逆もまた然り」
Q「前の人が善意なら、譲り受けた人が悪意だったとしても10年ってこと?」
P「そゆこと。前の人の地位をまるっと引き継ぐってイメージしたらええ」
Q「なんだかなぁ」
P「そんなもんだと割り切るしか」
Q「せやな」

所有権以外の財産権の取得時効

(所有権以外の財産権の取得時効)
第163条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。

Q「所有権以外も取得時効ってある?」
P「あるで。基本的な考え方は所有権と一緒」
Q「たとえばどんなものが」
P「地上権とか。地役権は特則あるしちょっと細かい」
Q「参考程度?」
P「うむ」

確認問題

(H27-04-1)
Bが父から甲土地についての**賃借権を相続により承継して賃料を払い続けている場合**であっても、相続から20年間甲土地を占有したときは、Bは、時効によって甲土地の所有権を取得することができる。→×

(H4-04-4)
Aは20年間平穏かつ公然に占有を続けた場合においても、その占有が**賃借権に基づくもので所有の意思がないとき**は、Bが賃料を請求せず、Aが支払っていないとしても、Aは、その土地の所有権を時効取得することができない。→○

(H16-05)
A所有の土地の占有者がAからB、BからCと移った場合のCの取得時効に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1.Bが平穏・公然・善意・無過失に所有の意思を持って8年間占有し、CがBから土地の譲渡を受けて2年間占有した場合、当該土地の真の所有者はBではなかったとCが知っていたとしても、Cは10年の取得時効を主張できる。

2.Bが所有の意思をもっと5年間占有し、CがBから土地の譲渡を受けて平穏・公然に5年間占有した場合、Cが占有の開始時に善意・無過失であれば、Bの占有に瑕疵があるかどうかにかかわらず、Cは10年の取得時効を主張できる。

3.Aから土地を借りていたBが死亡し、借地であることを知らない相続人Cがその土地を相続により取得したと考えて利用していたとしても、CはBの借地人の地位を相続するだけなので、土地の所有権を時効で取得することはない。

4.Cが期間を定めずBから土地を借りて利用していた場合、Cの占有が20年を超えれば、Cは20年の取得時効を主張することができる。

正解→1


1)Bの平穏・公然・善意・無過失の地位を引き継ぐのでCはBのを併せて10年でOK
2)Bは悪意なので、C単独で10年占有しないと成立しない
3)相続人CはBの地位を主張せず、C単独の主張をすることによって時効取得する余地がある
4)Cは賃貸人である以上、所有の意思はない

さいごに

時効全体についての電子書籍は以下になります。