敷金返還と敷金診断士などについて

生活

三寒四温とはよく言ったものですが,体調を崩しそうになるから困ります。
引っ越しシーズンでもあり,敷金問題が起こりやすい季節ということです。インターネットで検索をすると敷金診断士という文字を目にすることがあります。いったい何をどこまでできる資格なのか気になっていました。
それらも含めて敷金返還マニュアルというタイトルの電子書籍を出版してますが,その中から敷金診断士などの項目など,専門家に依頼するときにどのようなことを気を付けるのかについて,追加記載事項を含めてこちらにまとめました。

敷金返還を専門家に依頼するとき

インターネットで検索したときには、多くのページがヒットします。
特に目にするのが「行政書士」と「敷金診断士」ですが、実際どのようなことができる人たちなのでしょうか。

行政書士にできること

多くの事務所のサイトでは、内容証明郵便を送付することを謳っています。
では、そもそも内容証明郵便とはどのようなものなのでしょうか。

内容証明郵便とは

本質的には通常のお手紙と同じです。
違うところは、書かれている内容について郵便局側にも記録されているので、仮に争いになったときに内容について改ざんされる心配がないという点にあります。

相手に届いているかどうかなどについては、オプションである配達証明書というものになりますが、こちらについては内容証明郵便に限ったものではありません。一般書留でも、この配達証明をつけることができます。

形式が決まっているという関係上、どうしても内容証明郵便は「これから喧嘩しますよ」という最後通告のイメージが強いです。
しかし、本質を知っている人に対しては「ああ、手紙か」ということで無視されてしまうこともあります。

個人名で送るよりも、行政書士という肩書きが書かれた内容証明郵便を相手に送れば、多少は違いがあるかもしれませんが、必ず敷金を返してくれるという保証はどこにもありません。

これは、行政書士に限らず司法書士や弁護士でも同じことが言えます。
私自信も、経験上、内容証明郵便を送っただけで解決したことはありません。事前の交渉で解決するか、裁判手続きまでもつれ込むかのどちらかです。
また、話合いがまとまらなかったときに内容証明郵便を送ることなく、いきなり少額訴訟手続きに入ることも可能です。

行政書士法と非弁行為

行政書士は権利義務の書類を作成することが法律で認められています。
その点において、敷金を返してほしいという権利に関する書類として、内容証明郵便を作成することはできます。

しかし、弁護士または認定司法書士ではないので、交渉は一切できないことになっています。
仮に内容証明郵便を作ってもらい相手に送ったとして、それだけで敷金が戻ってくればいいのですが、仮に相手からの反応がなかった場合、行政書士は時効の更新についての通知・ADRの利用(後述)以外手も足も出せないことになるので、依頼するときにはこの点に注意しましょう。

仮に、交渉するとなると弁護士法違反となります。
同様に、訴状などの裁判所に提出する書類を作ることも弁護士法または司法書士法違反となります。

弁護士・認定司法書士

弁護士はオールマイティーです。
ただ、依頼料が高額になってしまう傾向が強いです。

司法書士は訴状などの裁判所に提出する書類を作成できるほかに、認定司法書士と呼ばれる人は簡易裁判所限定ではありますが、弁護士と同じように代理人として法廷に立つこともできます。
依頼料は弁護士より安いことが多いです。

敷金や原状回復のトラブルについて、訴訟を含めて最後までしっかりサポートできるのが弁護士や認定司法書士となります。

仮に少額訴訟ではない方法で裁判をし、相手が判決に納得できないために控訴したときは、認定司法書士も代理権を失ってしまいます
少額訴訟手続きは、簡易裁判所で行う訴訟のうち、1回の審理で決着つけるもので、控訴することはできないものです。
敷金関係のトラブルは少額訴訟の手続きが利用できる60万円におさまることが多いため、よほど高額の争いでなければ認定司法書士でも問題ありません。

敷金診断士

特定非営利法人(NPO法人)日本住宅性能検査協会が認定している民間資格です。
第三者としての立場から賃貸物件の適正な原状回復費の査定を行い、敷金・保証金トラブルの円滑な解決に努めることを業務としています。

敷金診断士のできること・できないこと

弁護士ではない以上、行政書士と同じく敷金診断士は交渉などを行うことはできません。
この資格についてはガイドラインも出ており、その中でたとえば「調査に含まれるもの」「立会業務」といった内容から「禁止事項」まで定められています。

有償の業務内容として
・室内建物調査
 間取りによる調査費用設定
1ルーム、2DK,2LDK、3DK,3LDK
・査定書〔基準書〕 作成
 調査後、国土交通省[ガイドライン]に基づき査定書〔基準書〕を作成。
 宛名は依頼者宛とする。
・参考資料〔別冊とする〕添付
 ガイドラインの内容や、ガイドラインにある事例等の判例

禁止事項として
* 代理交渉
* 立会いにおいて、契約書内容に言及すること(具体的には:更新、償却(敷引き)、特約問題等)は法律事件になるとの認識

法律相談
* 訴訟の依頼、内容証明の作成、その他法律相談については、協力弁護士事務所・司法書士事務所に相談してください

敷金診断士 実務ガイドラインより引用
※発行年月日が平成24年と古いため,現在は新たなものが策定されている可能性があります。

つまり、敷金診断士は室内の調査や国土交通省ガイドラインに沿った査定書などを作成することであり、具体的な交渉等は一切行わないというものです。

ADR

裁判外紛争解決制度(ADR)というものがあり、これは裁判手続きによらずに揉めごとを解決する手法があります。
法務大臣から認証を受けた紛争解決をする機関で、先ほどの非弁行為に該当しません
行政書士会や一般社団法人日本不動産仲裁機構(敷金診断士)などは、この認証を受けています。

メリット・デメリットはもちろんありますが、それだけでもかなりの文章量となるためまた別の機会があればそのときに。